

「なんで、みんなと同じようにできないんだろう」
私の20代は、この問いとの戦いでした。
・職場で少し注意されただけで、人格を否定されたように落ち込んでしまう。
・飲み会の翌日、楽しかったはずなのに、泥のように疲れて動けなくなる。
・映画やニュースの悲しいシーンを見ると、何日も引きずってしまう。
・機嫌の悪い人が近くにいるだけで、息が苦しくなる。
周りの人は、平気な顔で働いています。 上司に怒られても、すぐにケロッとしています。 満員電車でもスマホゲームをする余裕があります。
そんな彼らを見るたびに、私は思っていました。 「私は、どこか欠陥がある人間なんだ」 「心が弱くて、神経質で、面倒くさい人間なんだ」
もし今、あなたが同じように、夜な夜な一人反省会をして、自分を責め続けているのなら。 どうか、顔を上げてください。
あなたは、欠陥品でも、弱い人間でもありません。 あなたは、「HSP(Highly Sensitive Person)」という、全人口の約20%しか持っていない「特殊な脳のシステム」を持って生まれてきただけなのです。
これは、病気ではありません。性格の問題でもありません。 「右利き・左利き」と同じような、生まれつきの気質です。
ただ、この社会のシステムが「多数派(非HSP)」向けに作られているため、少数派の私たちは、どうしても生きづらさを感じてしまうのです。 例えるなら、「左利きの人が、右利き用のハサミを無理やり使わされているような状態」が、今のあなたです。 うまく切れなくて当たり前。指が痛くなって当たり前なのです。
この記事では、HSP歴30年の私が、長年「自分は異常だ」と苦しんだ末にたどり着いた、 「HSPを構成する4つの核心的性質(DOES)」 「なぜ私たちは、こんなにも自己肯定感が低いのか」 「繊細なまま、強く生きるためのマインドセット」 について、学術的な根拠も交えながら、どこよりも詳しく解説します。
この記事は、何かを売り込むためのものではありません。 ただ、あなたが「自分という人間」を正しく理解し、「なんだ、このままでよかったんだ」と心から思えるようになるための、長い長い手紙です。
温かい飲み物を用意して、ゆっくり読んでください。

HSPという言葉が流行り、「繊細さん」という呼び名も定着しました。 しかし、その本質が誤解されていることも少なくありません。
HSPとは、アメリカの心理学者エレイン・アーロン博士が提唱した概念です。 最も重要なポイントは、「環境感受性が非常に高い」ということです。
よく「神経質」「内気」「心配性」と言い換えられますが、これらは表面的な特徴にすぎません。 HSPの本質は、「脳の神経システムが、あらゆる刺激を深く、大量に処理してしまう」という点にあります。
【非HSPの脳】必要な情報だけを取り込み、不要なノイズ(雑音や他人の感情)はスルーするフィルターがある。
【HSPの脳】フィルターの目が粗く(あるいは存在せず)、全ての情報をダイレクトに取り込んでしまう。
つまり、私たちは常に「情報の洪水」の中に生きています。 あなたが疲れやすいのは、体力が無いからではありません。 普通の人なら10のエネルギーで済む日常を、100の情報を処理しながら生きているからです。 まずは、「私は毎日、すごい情報処理をしているんだ」と自分を認めてあげてください。
あなたがHSPであるならば、必ず以下の4つの性質すべてに当てはまります。 アーロン博士はこれを、頭文字をとって「DOES(ダズ)」と名付けました。 これを知ると、「あの時のあの感覚は、これだったのか!」と謎が解けるはずです。
これがHSP最大の特徴です。 HSPは、1を聞いて10を知る(あるいは100まで考える)脳を持っています。
・浅い会話が苦手: 天気の話や世間話よりも、「人生とは」「幸せとは」といった深い話を好みます。
・石橋を叩きすぎて壊す: 何か新しいことを始める時、リスクやシミュレーションを考えすぎて、なかなか行動に移せません。
・お世辞を見抜く: 相手が「いいですね」と言っても、その声のトーンや目の動きから「あ、本心じゃないな」と瞬時に察知し、裏の意味まで深く考えてしまいます。
「考えすぎだよ」とよく言われませんか? でも、それは変えられません。あなたの脳は、物事を深く掘り下げるように配線されているのです。
深く処理をするということは、それだけ脳への負荷(刺激)が大きいということです。 すぐにキャパオーバーになります。
・人混みで酔う: 満員電車やショッピングモールに行くと、視覚・聴覚情報が多すぎて、帰宅後に寝込んでしまう。
・急な予定変更にパニック: 自分のペースを乱されると、過剰に動揺してしまう。
・大きな音が苦手: クラクション、怒鳴り声、花火の音などが、物理的な「痛み」として響く。
あなたは「弱い」のではありません。 「高性能すぎるマイク」を持っているようなものです。 小さな音も拾ってしまうため、大きな音がしたらハウリングを起こしてしまうのです。
HSPは「ミラーニューロン(共感細胞)」の働きが活発だと言われています。 他人の感情が、まるで自分のことのように流れ込んできます。
・もらい泣き: 映画やドラマはもちろん、ドキュメンタリーやニュースを見ただけで涙が止まらなくなる。
・不機嫌な人に感染する: 近くにイライラしている人がいると、自分まで胃が痛くなったり、ビクビクしてしまう。
・「空気を読む」のレベルが違う: その場にいる全員の感情の機微を察知し、誰一人不快にならないように立ち回ってしまう。
「優しすぎる」と言われる原因はここにあります。 境界線が薄いため、他人の悲しみや怒りを、フィルターなしで浴びてしまうのです。
他の人が気づかないような、微細な変化に気づきます。
・五感が鋭い: 冷蔵庫の機械音、時計の秒針の音、服のタグのチクチク、柔軟剤の強い匂いなどが耐えられない。
・変化に気づく: 同僚の髪型の変化や、部屋の模様替え、あるいは「あ、この人今日体調悪そうだな」という顔色の変化にすぐ気づく。
・第六感: 芸術作品や自然の風景を見て、言葉にできない感動を覚えたり、直感が鋭く働いたりする。
この敏感さは、クリエイティブな才能でもありますが、日常生活では「神経質」と捉えられがちで、生きづらさの原因になります。
DOESを見てわかる通り、HSPの性質は本来「素晴らしい才能」でもあります。 深く考え、危機を察知し、人に優しく、細部に気づく。 これらは、学者、芸術家、カウンセラー、危機管理のプロとして最強の資質です。
しかし、なぜ多くのHSPは「自分が嫌い」「自信がない」と悩むのでしょうか。
今の社会(特に学校や企業)で評価されるのは、以下のような人物像です。
・テキパキと即断即決できる人
・多少のことは気にしないタフな人
・誰とでもすぐに仲良くなれる社交的な人
・声が大きく、競争に勝てる人
これらは、HSPの性質と「真逆」です。 HSPは、じっくり考え、慎重に行動し、少人数と深く付き合い、調和を好みます。
子供の頃から、 「もっとハキハキしなさい」 「細かいことを気にするな」 「泣くな、強くなれ」 と言われ続けてきませんでしたか?
私たちは、自分の「才能(DOES)」を否定され、苦手な「非HSP的な生き方」を強要され続けてきたのです。 「右利きの社会で、左利きの自分を矯正され続けてきた」 これでは、自己肯定感が育つはずがありません。
あなたが自分をダメだと思うのは、あなたが劣っているからではありません。 「評価される土俵が違っただけ」なのです。
ここで、あなたが今まで「自分の嫌なところ(短所)」だと思っていたHSPの性質を、本来の「長所(才能)」に翻訳し直してみましょう。 言葉を変えるだけで、世界の見え方が変わります。
「神経質」 ➡ 「細部に気づける、リスク管理能力が高い」
あなたは誰よりも早くミスに気づき、事故を防いでいます。
「考えすぎる」 ➡ 「物事の本質を深く理解しようとしている」
あなたの思考の深さは、浅はかな判断を防ぎ、最善の答えを導き出します。
「傷つきやすい」 ➡ 「感受性が豊かで、人の痛みがわかる」
その痛みを知っているからこそ、あなたは誰かに優しくできます。
「トロい・遅い」 ➡ 「丁寧で、正確な仕事をする」
スピード重視の社会では遅く見えるかもしれませんが、質の高い成果を出しています。
「流されやすい」 ➡ 「柔軟性があり、調和を大切にする」
あなたは組織の潤滑油として、争いを防いでいます。
どうでしょうか? あなたは「直さなきゃいけないダメな人」ではありません。 「慎重で、優しくて、思慮深い、素晴らしい能力を持った人」なのです。
最後に、この騒がしい世界で、HSPが幸せに生きていくための「心構え」をお伝えします。 無理に強くなる必要はありません。ただ、「守り方」を覚えればいいのです。
辛いことがあった時、「なんで私はこうなんだ」と自分を責めるのをやめましょう。 代わりに、**「あ、今HSPの『D(深く考える)』が出てるな」**と客観的に実況してください。
「今、大きな音に驚いて『O(過剰刺激)』になってるな」 「あの人の機嫌が悪くて『E(共感)』が発動してるな」
自分の性質に名前をつけるだけで、自分と感情を切り離すことができます。 「性格が悪い」のではなく「脳のシステムが作動している」と捉えるのです。
HSPは真面目なので、常に100%(あるいは120%)の力で頑張ろうとします。 しかし、HSPは刺激を受けやすいため、普通に生きているだけで体力が削られていきます。
最初から「私の定格出力は80%です」と決めておきましょう。 スケジュールは詰め込まない。 人との約束は連続させない。 「まだやれるかな?」と思った時点で切り上げる。
残りの20%は、突発的なトラブルや、脳のクールダウンのために絶対に空けておく「聖域」です。 サボりではありません。長く走り続けるための戦略です。
HSPの人生は、常に「他人ファースト」でした。 「あの人が困らないように」「空気を壊さないように」。
これからは、小さなことから「私はどうしたい?」と自分に問いかける練習をしてください。
「みんなはAランチだけど、私はBが食べたい」 「行きたくない飲み会は断る」 「疲れたから、洗い物を放置して寝る」
最初は罪悪感があるかもしれません。 でも、あなたが自分を大切にしないと、誰もあなたを大切にしてくれません。 あなたが自分の心のコップを満たして初めて、溢れた分で本当の意味で人に優しくできるのです。
アーロン博士は、HSPのことを「蘭(オーキッド)」に例えています。 (※非HSPは、どこでも咲ける「タンポポ」です)
タンポポは、アスファルトの隙間でも、踏まれても、元気に咲きます。 一方、蘭は環境に敏感です。 土が悪かったり、寒すぎたりすると、すぐに枯れてしまいます。
これを聞いて、「やっぱり蘭(HSP)は弱いじゃないか」と思いましたか?
でも、思い出してください。 蘭は、適切な温度、適切な水、適切な土がある環境(温室)で育てば、タンポポには決して真似できない、息を呑むほど美しく、高貴な花を咲かせます。
あなたも同じです。 あなたが今苦しいのは、あなたが弱いからではなく、あなたが「タンポポとして生きようとしている」からです。 アスファルトの上で、必死に踏ん張っているからです。
あなたは蘭です。 自分の繊細さを認め、自分に合った環境(仕事、人間関係、住環境)を選んであげてください。 刺激から身を守り、自分のペースで根を張ってください。
そうすれば、あなたは必ず、あなただけの美しい花を咲かせることができます。 その感性は、呪いではなく、神様がくれたギフトなのですから。
今日から、自分を矯正するのは終わりにしましょう。 その繊細な心のまま、胸を張って生きていきましょう。 私は、そんなあなたの味方です。